ある日、会社にちょっと変わった依頼が舞い込んだ。依頼主は50代前半で、とある企業の社長を務める男性だ。昔、お金がなくてどうしていいか分からなかった時代に偶然出会い、ビジネスの基礎を教えてくれた恩師へ、感謝を込めて誕生日プレゼントを届けたいという。購入物はカルティエの限定バッグで、すでに依頼主が注文済みとのこと。私はその引き取りからお届けまでの大役を任された。

指定された高級ブティックへ向かう。普段の配達でハイブランドの店舗に足を踏み入れることなどまずない。自動ドアをくぐる瞬間は、いつもと違う独特の緊張感があり、ライダージャケット姿の自分が少し場違いなように感じてソワソワしてしまった。それでも店員さんに名前を告げると、丁寧に対応していただき、ずっしりと重みのある美しいカルティエの専用バッグを受け取った。

慎重にバッグを大型バイクのトランクへ積み込み、向かった先は恩師の事務所が入るオフィスビルだ。依頼主の熱い想いが詰まった品を無事に届けるため、いつも以上に安全運転でビルに到着した。

しかし、セキュリティがしっかりしたビルだったため、残念ながらご本人に直接お渡しすることはできず、エントランスで警備員の方に預ける形となった。長年、依頼主を支え続けたその「恩師」が一体どんな方なのか、少しだけでもお顔を拝見して、直接おめでとうございますと伝えたかったのだが、それだけが心残りだ。

それでも、帰りの無線で依頼主へ完了を伝えた際、「本当にありがとう!」と弾んだ声で感謝の言葉をいただいた。直接会えはしなかったけれど、社長の熱い恩返しの一端を担えた気がして、胸が熱くなるような充実感を味わった一件だった。

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